08 白いページの続きから
静かに直感に耳をすませて、手を動かす。
気がつけば、暮らしの波にゆらゆら流されているうちに、季節はすっかり春。ひさしぶりにこの場所に戻ってきました。さて、前は何を書いたんだっけ…と、自分でも思い出せず、読み返してしまいました。(とほほです)
そうそう。スケッチブックの話でした。日々の創作に欠かせない、大事なツール。前回は、たしか5年ほど前、人生のちょっとした迷い道にさしかかっていた頃、ふとスケッチブックを手にとったときの話を書いたのでした。
というわけで今回は、そのスケッチブックを、日々アトリエでどんなふうに使っているのか、そんなことを書いてみようと思います。
アトリエの1日は、まずノートに向かうところから始まります。自分自身との定例ミーティングのようなもので、今、頭の中にあることを、ぽつぽつと書き出していきます。たいして意味のないことでも、ただ手を動かしているうちに、ざわざわした心が、だんだんと静かになっていきます。日常モードから、少しづつ創作モードに切り替わる感じです。いわば、準備運動のようなものかもしれません。心が整ったと思えたら、スケッチブックの新しいページを開きます。
「白紙の恐怖(Fear of blank pages)」という言葉がありますよね。何も描かれていないものに向かうときの、あのじわっとした抵抗感。私もよくわかります。でも不思議なことに、スケッチブックに関しては、それをあまり感じたことがないんです。そもそも気楽な存在である、というのも理由のひとつですが、それだけではない気がしています。
たしかに、新しいページは真っ白です。でも、それまでのページがすぐそばにあることで、完全にゼロからというわけではなくなる。前のページには、これまでの空気感のようなものが残っていて、そこにアンテナを合わせるようにして続きに戻っていくことができます。この「流れの中にいる感じ」に私はずいぶん助けられています。
最近描いたページを、少し距離をおいて眺めてみることもあります。すると、「この線、いいな」とか「ここだけ切り取ってみようかな」とか、自然と次の方向が見えてきたら、それに従います。反対に、何も見えてこないな、と感じる日もあります。そういうときは、まったく違うことを試してみて、新しい空気を吹き込んだりもします。
そんなスケッチブックの時間の中で、私がひとつだけ大事にしているルールがあります。それは、「心がわくわくする方向に進むこと。」
「こうしなくては」とか、「みんなに好かれやすそうなものを描こう」とか、そういった考えは、あまり役にたちません。むしろ行き止まりへまっしぐらのような気がします。
「鳥の絵は人気だったから、もっと描かなきゃ」
「誰それみたいに描けたらもっとよくなるかも」
「今までのスタイルから外れないほうがいいかな」
かつて、こんな心の声に引っ張られそうになったことが何度もありました。
今こうして書いていても、なんだか狭苦しい気持ちになります。外ばかり見ていると、自分の声が聞こえなくなる。少なくとも、私にとっては、そこに答えがあった試しはありません。
一方で、こんな小さな声には耳をすませたい。
「これ、好きだな」
「いい感じがする」
「こうしてみたらどうなるかな」
言葉では説明できないけれど、単純な「いい感じ」からくるものは、自分だけの創作の根っこを育ててくれるような、信頼できる感じがするのです。
私にとってスケッチブックは、自分と対話する場所。誰に見せるでもなく、自由に遊べる実験室です。毎日、静かに直感に耳をすませて、手を動かす。嘘はつかない。そうやって描いていると、ときどき、自分でも予想しなかったようなものがふいに現れることがあって、「お!」と思う、その瞬間が、なんともおもしろいのです。
そんな使い方なので、すべてのページがうまくいくわけではありません。表に出している「いい感じ」のページの裏には、どうにもならなかったページが山ほどあります。でも、それらにもちゃんと意味があって、「こっちじゃないよ」と、教えてくれているように思うのです。
次回は、そんな「いまいち」なページたちを、ちょっと引っぱり出してきて、あれこれ書いてみようかなと思っています。今度こそ、忘れないうちに。
それではまた。
読んでくださって、ありがとうございます。
Akiko Juni
◾️ライティング舞台裏のひとりごと
(水面下の試行錯誤をこっそりオープンにメモする場所)
不覚にも!前回の投稿から、気づけば数ヶ月も経ってしまいました。(もはや季刊?)いったん途切れた流れを取り戻すのは本当に大変。時間が経つと、何を思っていたのか忘れてしまうし、書きたかったことも、かたちが変わってしまう。「書く」ということが、まだ自分の中でうまくリズムになっていない…。これが目下の課題です。さあどうやってやろうかな。






初めまして。日々家事育児に追われ、創作する時間がないとか、どういう方向性で進めようかなどなど迷走していた時にこちらのページに遭遇し、以来拝読させていただいております。周りの情報に惑わされずに自分の好きに素直になるのって本当に大変だなぁと思っていたところ。同じように考えていらっしゃる方がいるんだなというだけで元気が湧いて来ました。ありがとうございます。